漏斗胸について

  漏斗胸の治療方法・症例 漏斗胸の症状

治療方法・症例 もくじ

漏斗胸の症状  [漏斗胸の治療方法・症例]

漏斗胸は比較的生下時より認める病状なので、昔の心臓弁膜症と同じように、若年者においては症状が明確でない事が特徴的です。人によっては漏斗胸に起因する胸郭出口症候群によって来す胸痛を屡々認めますが、実際には多くの症例において、余り明確な症状はありません。最近私も約2000例の漏斗胸症例を経験し、ナス法を開始してから気が付いたのは、「背筋を真っ直ぐに保てない」というのが重要な症状です。一般的に猫背と言われていますが、実はこれは漏斗胸の大きな症状の一つなのです。何故ならば、漏斗胸による前胸壁の陥凹により、心臓及び肺は圧迫されます。

これを少しでも軽減させる為に、漏斗胸の患者さまは自分自身で自分自身の症状を減ずる為に猫背の姿勢をしているわけです。この様な方に手術前に外来にいらした時、「猫背を直して、きちんとした姿勢を保てますか?」と聞いてみたところ、殆どの患者さまが「長時間背筋を伸ばしておくのは苦痛である。」との事でありました。この様な事からも猫背は漏斗胸の大きな症状の一つと言えるでしょう。

更に、漏斗胸の方にはマルファン症候群との関係もありますので、心大血管系の症状を呈する場合もありますが、これはマルファン症候群の不全型もありますので、全ての人が心大血管系の症状を有するとは限りません。私が現在、漏斗胸及びマルファン症候群で心大血管等の症状を来した患者さまは極僅かです。

以上の事から、漏斗胸で陸上部で長距離を走っている人もいますし、漏斗胸でボクシングをしている人もいますが、実際には症状が無いように見えて、この様な方に「姿勢をきちんとして下さい。」と言うと、長時間持続できないというのが症状です。これはナス法を行う事で改善します。

病院での検査

胸部X線撮影

漏斗胸 胸部X線撮影

胸部X線像では胸椎から出た肋骨は多少上方に向かい、次いで急傾斜で下降します。年長者では側弯症を認めることが多いのですが、Cobb角30度以上の側弯症を有する漏斗胸症例は稀です。心陰影は全体に左方に変位していることが多く、右第一弓、二弓がなく心臓の右側は一般に脊椎の陰影と重なります。

多くの場合、右下肺野の気管支血管陰影の増強を認めます。横隔膜は一般に正常に比して低位にあることが多く、胸郭は平べったく長くなっています。側面像では胸郭前後径は短く、肋骨は脊椎に向かって陥凹しています。

高度な症例では椎体前面にほとんど接触していることもあります。肋骨の著しい斜走を明確に認めることが容易であり、脊椎は平背または円背である場合が殆どです。

胸部CT

漏斗胸 胸部CT

胸部CT撮影は胸郭の変形が水平面で明らかになり、術前の陥凹程度の検討および術後の改善度を診る上で良い指標となります。

現在ではマルチスライスCTへと進歩した為、特に有意義です。心臓の位置は前胸部の陥凹により脊椎との距離が短くなる為に、多くは右に偏位する症例が多く、稀に左に偏位する症例もあります。場合によっては、漏斗胸の陥凹をドンと受け止め、心臓全体が潰れたお餅のようになる場合もあります。また肺尖部のCT撮影により、高齢者では肺嚢胞症の合併を認める場合もあります。

最近ではマルチスライスCT及びコンピュータグラフィックス進歩を用いて(CT:Computed Tomography:コンピュータ断層撮影=昔ビートルズがお金を儲け過ぎてCTを開発に資金的援助をした事から、ビートルズが創ったレコード会社『EMI社』の名前を用いてEMIスキャンと呼ばれる事もありました。)

CT撮影に際し、造影剤を使用する事により撮影された造影CTでは、更に右心室や左心室の変形を認めることがあります。右心室の変形は胸郭の陥凹度に合わせて認められるのですが、剣状突起部の変形が著しい場合は、右心室は局所的に陥凹して見える場合もあります。また心臓が左方に偏位している場合は、陥凹部がちょうど左冠動脈に当たり、右冠動脈の陥凹による変形を認める場合もあります。

造影CTから得られたコンピュータ・グラフィックスを用いて行った心臓の状態を診ると、陥凹の程度及び陥凹の状態、心臓偏位による様々な状態が分かります。一番典型的な症例では術前に細くなっていた心臓が、術後陥凹が改善された為に心臓の幅が拡がるという事も認めています。

胸部モアレ検査

モアレ写真は光源および格子により前胸部にモアレ縞による等高線を描くことで陥凹の程度を客観的に知ることができ、また写真として記録に残すことが可能となりました。このモアレ縞を数えることにより変形の程度を数量化し、陥凹部の容積も計算し得ます。

現在では臥位型モアレ装置にて得られたモアレ縞をコンピューターにインプットすることにより、胸部の水平断および矢状断が自動表示され、陥凹部容積を計算し、なおかつ各方向からみた前胸壁を再現することが可能となりました。吸気時および呼気時のモアレ写真より、呼吸による胸郭運動を知ることが可能です。 (Saito, M., et al:Application of the moire to prography to the chest. Deformity at O. P. D. Proceedings for 9th annual meeting of the japanese society for moire contourography, 27, 1983.)

しかしながらマルチスライスCTが可能となった現在では、当院においては使用していません。

心電図検査

心電図所見は特徴的であり、典型的な漏斗胸症例は心電図のみで診断することが可能です。前胸部の陥凹によりV1の位置が深く、多くの症例で心臓の左方変位があるために心房のベクトルが陰性の方向を向きます。これによりV1における陰性または二相性のP波を認めます。

早期に手術を施行することにより心臓の位置は正常化し、V1のP波は陽性となります。QRS時間は0.12秒以内ですが、 V1のQRS波型はrSR'のような右脚ブロック様パターンを呈します。これはV1のT波は年齢を問わず全例が陰性であり、早期に手術を施行した例では陽性となった症例も認めました。洞結節を圧迫する為、殆どの症例において洞性不整脈を認めます。

心エコー検査

漏斗胸 心エコー検査

右心室流出路の圧排を認めます。心室中隔から左心室の心尖部にかけての壁運動低下も認める場合があります。これは漏斗胸に伴う心筋虚血が影響しているからです。

また漏斗胸による圧排により、僧帽弁逸脱症、僧帽弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症を認める場合もあります。右心室の圧排により右心室の拡張低下を認める場合もあります。

呼吸機能検査

呼吸機能の評価は、実際に症状があらわれる幼小児期には難しいものです。漏斗胸症例の成人の呼吸機能は漏斗胸の程度が重症である程%VCの低下があり、拘束性の所見を認めます。

また、30歳以上の症例ではV50およびV25が正常値に比して大きく低値を示し、閉塞性の変化が進行していると言えます。(笠置康ほか:漏斗胸の呼吸機能に関する研究.日胸疾会誌,20(増):181,1982.)

心臓カテーテル検査、心血管造影

漏斗胸 心臓カテーテル検査、心血管造影

以前は行っていた心臓カテーテル検査及び心血管造影においては、循環動態として心拍出量は、正常人よりも高値を示し、収縮期雑音の原因と類推された右室一肺動脈間の圧数差はほとんどの症例で見られませんでした。多くの症例で左室拡張末期圧の上昇が著明でした。

また圧迫による心臓の左方への移動に伴い、下大静脈は脊椎の前方よりこの左方に位置する右房に流入していました。左室造影においては、僧帽弁逸脱症の所見を呈するものが屡々あり、大動脈造影では、大動脈弁輪部の拡張を見るものをも認めました。冠動脈造影所見は、全体に柳枝状であり、右冠動脈(Seg.1,2)の走行は圧迫により後方に弯曲していました。

現在ではCTの発達により心血管造影を行う事無く、心臓カテーテル検査によって得られる情報は、ほぼ心エコー及びマルチスライスCTで得る事ができます。

大人の方の漏斗胸治療手術をたくさん行っています。痛みの少ない漏斗胸治療のために努力しています。